もうすぐ春。ロゼの微発泡ワインに山菜料理を合わせて | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]

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ポカポカと暖かかったり、かと思えばぐっと冷え込んだり。これは春が近づいている証拠。野山の植物たちも土の中から芽を出そうとしているこの季節を、ワインで楽しみたい。今回は、中華料理のシェフでソムリエの猪瀬文俊さんの案内で満喫する「春待つ芽吹きのペアリング」。 今回のソムリエ PROFILE 猪瀬文俊 いのせ・ふみとし 「ナチュラルセンス」(茨城県筑西市)の中華シェフ、ソムリエ、利き酒師。 東京・青山「桃源閣」、神泉「文琳」で素材を生かす中国料理を、その後、台湾・高雄市の「江浙・家郷楼餐庁(ジャーシャンロウシャンティン)」で台湾の家庭料理と上海の地方料理を学ぶ。一皿に素材を多用せず、少ない食材でじんわりと優しいおいしさを表現することがモットー。第4回ヨーロッパのワインを楽しむ中国料理コンクールでは「子羊の五香粉ロースト 棗(なつめ)風味の黒酢ソースを添えて」がローヌ賞グランプリを獲得。自然派ワインを中心に「酔うためのワインではなく、幸せになるためのワイン」を、自らの料理とともに日々提案している。 イタリア、エミリア・ロマーニャ州の、やさしい微発泡ワイン まもなく3月。そろそろ春野菜や山菜が出回り始める。土の中で冬の寒さに耐え、地上に頭を出した若芽は生命力にあふれ、特に山菜は外敵から身を守るため独特の苦味やえぐみを蓄えている。それらの成分は抗酸化作用の高いポリフェノール類で、栄養もたっぷり。活動的になる体にもうれしい、春のごちそうだ。 そして、なんと春に芽吹くワインもあるとか。それが、自然派ワインを愛する猪瀬シェフがセレクトした1本。イタリア、エミリア・ロマーニャ州にあるワイナリー「ヴィットーリオ・グラツィアーノ」が作る、ロゼの微発泡ワイン「スミルツォ」。 「正確にいうと、収穫したブドウを破砕したあと果汁と一緒に果皮を漬け込み、圧搾したら樽(たる)へ。発酵が始まるものの、冬を迎え気温が下がると酵母は動きを止める。3~4月になって気温が上がってきたら瓶詰めし、すると瓶内で再び発酵が始まります。眠りから目覚めて活動を始める、まさに『芽吹きのワイン』なのです」と猪瀬シェフ。 効率化された現代的な製法で作られるワインが多いエミリア・ロマーニャ州の中でも、当主のヴィットーリオさんは昔ながらのブドウ品種にこだわり、瓶内二次発酵でこの地の伝統的な微発泡ワイン「ランブルスコ」を作り続けているという。その姿勢、体にも心にも染み渡るようなワインに猪瀬シェフは魅了されている。 「自然派ワインは品質管理が難しく、さらにヴィットーリオさんのワインのように生産量が少ない職人的ワインは扱いにくいため、かつては日本で紹介されるなんて考えられなかった。飲み手の経験値が上がってワインの裾野が広がり、流通から販売に至るまで適切な管理が整った今だからこそ楽しむことができる、そんな貴重なワインなのです。こうしたワインを、気概を持って輸入している小規模インポーターの方々にも敬意を表したい。おかげで個性的な自然派ワインを堪能できるから」 最新の2018年ヴィンテージは、「梅の花やアセロラを思わせる、可憐(かれん)な香り。口に含むとピチピチと穏やかな泡が弾けます。まだ肌寒い日がある春先には、このぐらいの控えめなシュワシュワが心地いい」 天ぷらかおひたしが定番の山菜だが、猪瀬シェフの手にかかれば春の息吹が感じられる中華風の一皿に。冬の眠りから目覚めたワインと一緒に「春待つ芽吹きのペアリング」を。 春の恵みと生ハムの蒸し煮 材料(1人分) ・アサリ(砂抜きをする) 12個 ・タラの芽、こごみ 各6本 ・フキノトウ 2個 ・菜の花 6本 ・プチトマト 4個 ・生ハム 4枚 ・ニンニクスライス 2/3かけ ・サラダ油 小さじ1 ・アップルビネガー 小さじ2(なければレモン汁や酢で代用可) A ・酒 100cc ・水 100cc ・ごま油 小さじ1 作り方 1. 山菜類は軽く水洗いし、根元の黒い部分を取り除く。菜の花も根元の硬い部分は取る。フキノトウは外側の茶色く変色した部分を取り除き、緑色の葉を開いておく。 2. 生ハムは大きめの一口大に切る。 3. 鍋にサラダ油とニンニクスライスを入れ弱火にかける。 4. ニンニクがパチパチとしてきたらアサリと生ハムを入れ、20秒ほど炒めたら山菜と野菜を入れる。 5. すぐにAを入れフタをする。火は弱火のまま。 6. 1分半~2分ほど蒸し煮にし、フタを開けアサリの口が開いていたら塩加減を見る。やや濃いめの味付けでOK。薄ければ少し塩を足す。 7. 味が決まったらアップルビネガーを入れ、ひと煮立ちすれば完成。 山菜にワイン、癒やしのマリアージュ 「本来は中華ハムを使いますが、手軽さで今回は生ハムを。弱火でじっくりと蒸し煮にし、生ハムとアサリのうまみを野菜にしっかり含ませるイメージで」と猪瀬シェフ。生ハムとアサリに塩分があるので、塩はほとんど加えないでいい。 山菜にワイン? ちょっと意外かもしれないが、山菜のグリーンのトーンや独特のほろ苦さは、同じ要素を持つ白やロゼとは実は相性がいい。山菜の天ぷらにスッキリとした白ワインを合わせれば、レモンなどの柑橘(かんきつ)類をしぼる感覚で楽しむことができる。 今回のワインと料理とのペアリングのポイントについて、猪瀬シェフはこう語る。「後半にほんのりと感じる心地いい苦味が、親しみやすいワインの味わいを引き締めてくれます。梅ジャムのような香りと甘酸っぱさ、山菜の苦味、アサリと生ハムが生み出す複雑で重層的なうまみが口の中できれいに調和する。ワインと料理の個性をぶつけ合い化学反応を楽しむペアリングもありますが、今回はそれぞれが持つ魅力をお互いに引き出して寄り添う、癒やしのマリアージュです」 いつだって春は待ち遠しいが、いまだ収束が見えないコロナ禍に耐える中で迎える春。「少しでも光が見えて、ニューノーマルな日常を取り戻したとき、それぞれの世界に何かの芽吹きがあったら素晴らしいですね」と、猪瀬シェフは笑顔を見せた。 ヴィットーリオ・グラツィアーノ「スミルツォ 2018年」 3300円(参考価格・税込み) 自然環境に配慮した栽培で人の手の介入は必要最低限に。酵母添加や温度管理も行わず、瓶内二次発酵で、澱(おり)引き(=沈殿してくる澱を取り除く)もしない。伝統的なランブルスコ造りを追求するヴィットーリオさん。「スミルツォ」は、発酵の状態を見ながら感覚的に判断し、微妙に手法を変えるという。一期一会の味わいを楽しみたい究極の自然派ワインだ。 詳細はエヴィーノのHPで。

ポカポカと暖かかったり、かと思えばぐっと冷え込んだり。これは春が近づいている証拠。野山の植物たちも土の中から芽を出そうとしているこの季節を、ワインで楽しみたい。今回は、中華料理のシェフでソムリエの猪瀬文俊さんの案内で満喫する「春待つ芽吹きのペアリング」。 今回のソムリエ PROFILE 猪瀬文俊 いのせ・ふみとし


「ナチュラルセンス」(茨城県筑西市)の中華シェフ、ソムリエ、利き酒師。


東京・青山「桃源閣」、神泉「文琳」で素材を生かす中国料理を、その後、台湾・高雄市の「江浙・家郷楼餐庁(ジャーシャンロウシャンティン)」で台湾の家庭料理と上海の地方料理を学ぶ。一皿に素材を多用せず、少ない食材でじんわりと優しいおいしさを表現することがモットー。第4回ヨーロッパのワインを楽しむ中国料理コンクールでは「子羊の五香粉ロースト


棗(なつめ)風味の黒酢ソースを添えて」がローヌ賞グランプリを獲得。自然派ワインを中心に「酔うためのワインではなく、幸せになるためのワイン」を、自らの料理とともに日々提案している。 イタリア、エミリア・ロマーニャ州の、やさしい微発泡ワイン


まもなく3月。そろそろ春野菜や山菜が出回り始める。土の中で冬の寒さに耐え、地上に頭を出した若芽は生命力にあふれ、特に山菜は外敵から身を守るため独特の苦味やえぐみを蓄えている。それらの成分は抗酸化作用の高いポリフェノール類で、栄養もたっぷり。活動的になる体にもうれしい、春のごちそうだ。


そして、なんと春に芽吹くワインもあるとか。それが、自然派ワインを愛する猪瀬シェフがセレクトした1本。イタリア、エミリア・ロマーニャ州にあるワイナリー「ヴィットーリオ・グラツィアーノ」が作る、ロゼの微発泡ワイン「スミルツォ」。


「正確にいうと、収穫したブドウを破砕したあと果汁と一緒に果皮を漬け込み、圧搾したら樽(たる)へ。発酵が始まるものの、冬を迎え気温が下がると酵母は動きを止める。3~4月になって気温が上がってきたら瓶詰めし、すると瓶内で再び発酵が始まります。眠りから目覚めて活動を始める、まさに『芽吹きのワイン』なのです」と猪瀬シェフ。


効率化された現代的な製法で作られるワインが多いエミリア・ロマーニャ州の中でも、当主のヴィットーリオさんは昔ながらのブドウ品種にこだわり、瓶内二次発酵でこの地の伝統的な微発泡ワイン「ランブルスコ」を作り続けているという。その姿勢、体にも心にも染み渡るようなワインに猪瀬シェフは魅了されている。


「自然派ワインは品質管理が難しく、さらにヴィットーリオさんのワインのように生産量が少ない職人的ワインは扱いにくいため、かつては日本で紹介されるなんて考えられなかった。飲み手の経験値が上がってワインの裾野が広がり、流通から販売に至るまで適切な管理が整った今だからこそ楽しむことができる、そんな貴重なワインなのです。こうしたワインを、気概を持って輸入している小規模インポーターの方々にも敬意を表したい。おかげで個性的な自然派ワインを堪能できるから」


最新の2018年ヴィンテージは、「梅の花やアセロラを思わせる、可憐(かれん)な香り。口に含むとピチピチと穏やかな泡が弾けます。まだ肌寒い日がある春先には、このぐらいの控えめなシュワシュワが心地いい」 天ぷらかおひたしが定番の山菜だが、猪瀬シェフの手にかかれば春の息吹が感じられる中華風の一皿に。冬の眠りから目覚めたワインと一緒に「春待つ芽吹きのペアリング」を。


春の恵みと生ハムの蒸し煮 材料(1人分) ・アサリ(砂抜きをする) 12個 ・タラの芽、こごみ 各6本 ・フキノトウ 2個 ・菜の花 6本 ・プチトマト 4個 ・生ハム 4枚 ・ニンニクスライス 2/3かけ ・サラダ油 小さじ1 ・アップルビネガー 小さじ2(なければレモン汁や酢で代用可) A ・酒 100cc ・水 100cc ・ごま油 小さじ1 作り方 1.


山菜類は軽く水洗いし、根元の黒い部分を取り除く。菜の花も根元の硬い部分は取る。フキノトウは外側の茶色く変色した部分を取り除き、緑色の葉を開いておく。 2. 生ハムは大きめの一口大に切る。 3. 鍋にサラダ油とニンニクスライスを入れ弱火にかける。 4. ニンニクがパチパチとしてきたらアサリと生ハムを入れ、20秒ほど炒めたら山菜と野菜を入れる。 5.


すぐにAを入れフタをする。火は弱火のまま。 6. 1分半~2分ほど蒸し煮にし、フタを開けアサリの口が開いていたら塩加減を見る。やや濃いめの味付けでOK。薄ければ少し塩を足す。 7. 味が決まったらアップルビネガーを入れ、ひと煮立ちすれば完成。 山菜にワイン、癒やしのマリアージュ


「本来は中華ハムを使いますが、手軽さで今回は生ハムを。弱火でじっくりと蒸し煮にし、生ハムとアサリのうまみを野菜にしっかり含ませるイメージで」と猪瀬シェフ。生ハムとアサリに塩分があるので、塩はほとんど加えないでいい。 山菜にワイン?


ちょっと意外かもしれないが、山菜のグリーンのトーンや独特のほろ苦さは、同じ要素を持つ白やロゼとは実は相性がいい。山菜の天ぷらにスッキリとした白ワインを合わせれば、レモンなどの柑橘(かんきつ)類をしぼる感覚で楽しむことができる。


今回のワインと料理とのペアリングのポイントについて、猪瀬シェフはこう語る。「後半にほんのりと感じる心地いい苦味が、親しみやすいワインの味わいを引き締めてくれます。梅ジャムのような香りと甘酸っぱさ、山菜の苦味、アサリと生ハムが生み出す複雑で重層的なうまみが口の中できれいに調和する。ワインと料理の個性をぶつけ合い化学反応を楽しむペアリングもありますが、今回はそれぞれが持つ魅力をお互いに引き出して寄り添う、癒やしのマリアージュです」


いつだって春は待ち遠しいが、いまだ収束が見えないコロナ禍に耐える中で迎える春。「少しでも光が見えて、ニューノーマルな日常を取り戻したとき、それぞれの世界に何かの芽吹きがあったら素晴らしいですね」と、猪瀬シェフは笑顔を見せた。 ヴィットーリオ・グラツィアーノ「スミルツォ 2018年」 3300円(参考価格・税込み)


自然環境に配慮した栽培で人の手の介入は必要最低限に。酵母添加や温度管理も行わず、瓶内二次発酵で、澱(おり)引き(=沈殿してくる澱を取り除く)もしない。伝統的なランブルスコ造りを追求するヴィットーリオさん。「スミルツォ」は、発酵の状態を見ながら感覚的に判断し、微妙に手法を変えるという。一期一会の味わいを楽しみたい究極の自然派ワインだ。 詳細はエヴィーノのHPで。